「健康のためには栄養バランスのとれた食事を摂取することが大事」と言われていますが、実際にどのような食事をとれば良いかイメージすることはできますか?
たとえば学校の給食が思い浮かぶ方も多いでしょう。
学校給食は、まさに栄養バランスを重視して献立を考え、作られています。
給食のようなメニューが体に良いとわかっていても、日々の仕事や家事、子育てで忙しい中、実際に毎食用意をするのは大変に感じる方も多いと思われます。
今回は、栄養バランスのとれた食事の考えかたや栄養素の基礎知識、食事の栄養を整えるちょっとした工夫を紹介します。
この記事が、日々の食事を考え直すきっかけになれば幸いです。
栄養バランスのよい食事とは?
栄養バランスの良い食事とは、人間の体が必要とするさまざまな栄養素を、過不足なくバランスよく摂取できる食事のことです。
現在わかっている人間に必要な栄養素は、厚生労働省が定めている「日本人の食事摂取基準(2020年版)」に必要な量とともに挙げられています。
食事摂取基準とは?
食事摂取基準とは、国民の健康の維持増進を図るために、厚生労働省が策定した基準です。
健康な人を対象に、食事から摂取すべきエネルギーや栄養素の量の基準が定められています。
5年ごとに策定されており、2023年現在では2020年版が最新です。
日本人の食事摂取基準では、摂取すべきエネルギーや栄養素の摂取量が、年齢、性別ごとに記載されています。
具体的には、次の栄養素について基準値が示されています。
- エネルギー
- タンパク質
- 脂質(4項目)
- 炭水化物(2項目)
- ビタミン(13種類)
- ミネラル(13種類)
現代の日本人にとって、食事摂取基準の栄養素量を満たした食事が、栄養のバランスのよい食事のひとつの目安といえます。
食品に含まれる五大栄養素とは
「五大栄養素」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
五大栄養素とは、食品に含まれる栄養素を性質やはたらき別にグループ分けしたものです。
- 炭水化物
- 脂質
- タンパク質
- ビタミン
- ミネラル
これらは全て体にとって大切な栄養素です。それぞれの栄養素について紹介します。
炭水化物
炭水化物は、次の2種類に大きく分かれます。
- 糖質
- 食物繊維
それぞれ説明します。
糖質
糖質は、体内で最も素早くエネルギーに変化する栄養素です。
1gにつき約4kcalのエネルギーを発生させます。
糖質を口から摂取すると、唾液や胃液に含まれる消化酵素により分解されます。
最終的には小腸でブドウ糖や果糖になり、体内に吸収されます。
分解された糖質は、血液によって全身に運ばれ、エネルギー源として利用されたり、燃料として筋肉や肝臓に貯蓄されたりします。
食物繊維
食物繊維は、単糖がたくさん結合した多糖類の仲間ですが、人間の消化酵素では分解されません。
消化されないため、摂取してもエネルギー源にはなりません。
しかし、食物繊維は大腸内の善玉腸内細菌の餌になるため、摂取すると善玉菌が増え、腸内環境が改善されます。
それ以外にも、食物繊維は身体にとって非常に大切な役割を担っています。
食物繊維は、水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けない不溶性食物繊維の2種類に大別されます。
水溶性食物繊維は、水に溶けるとゼリー状になる成分です。
低カロリーであるうえに満腹感が得られるため、肥満やさまざまな生活習慣病の予防効果があります。
水溶性食物繊維の効果には次のようなものがあります。
- 小腸での栄養素の吸収の速度を緩やかにし、食後の血糖値の上昇を抑える
- コレステロールを吸着し血中コレステロール値を下げる
- ナトリウムの排泄を促し高血圧を予防する
一方、水に溶けにくい不溶性食物繊維は、水分を吸収し、便の容量を増やします。
大腸の刺激になるため、便秘解消になるとともに、有害物質を体外へ排出し大腸がんのリスクを減らしたり、肌をきれいに保ったりする効果をもたらします。
脂質
脂質は、五大栄養素のなかで最もエネルギーの高い栄養素です。
1gあたりのカロリーは約9kcalです。
体のエネルギー源になる以外にも、次のような役割を担っています。
- 皮下脂肪として臓器の保護や寒さから身体を守る
- 細胞膜や臓器、神経の構成成分
- ビタミン運搬のサポート
脂質を構成しているのは脂肪酸です。
脂肪酸には、常温で固体の飽和脂肪酸と、常温で液体の不飽和脂肪酸に分けられます。
さらに、不飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸と、多価不飽和脂肪酸に分かれます。
多価不飽和脂肪酸には、体内で合成できないn-3系脂肪酸(オメガ3脂肪酸)と、n-6系脂肪酸(オメガ6脂肪酸)があります。
オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸は体内で合成できず、食事からの摂取が不可欠な栄養素です。
そのため必須脂肪酸とも呼ばれます。
とくに、オメガ3脂肪酸は、動脈硬化予防をはじめとする生活習慣病予防に効果があることがわかっており、積極的に摂りたい油として注目されています。
オメガ3脂肪酸は次のような食材に含まれています。
- 青魚
- くるみ
- アマニ油
- シソ油
積極的に摂取する習慣を作りましょう。
たんぱく質
たんぱく質は、体を構成する主要な栄養素のひとつです。
筋肉や皮膚、骨、血液などに利用されます。
また、たんぱく質は、糖質や脂質が不足した場合のエネルギー産生栄養素のひとつでもあります。
1gあたり約4kcalのエネルギーを発生させます。
タンパク質は、20種類のアミノ酸がさまさままな配列で結合してできています。
アミノ酸は体内で作り出すことのできるものもあります。
20種類のアミノ酸のうち、9種類は体内で合成できず、食事から摂取する必要があるため「必須アミノ酸」と呼ばれます。
たんぱく質を摂取するときは、アミノ酸がバランスよく含まれている食品を選ぶと効果的です。
アミノ酸がバランスよく含まれている良質なタンパク質かどうかは、「アミノ酸スコア」という数値で知ることができます。
アミノ酸スコアが100、またはそれに近い数値であれば、アミノ酸のバランスがよい食品です。
アミノ酸スコアが100の食品には、次のようなものがあります。
- 鶏肉、豚肉
- あじ、いわし、まぐろ
- 牛乳
- 卵
- 大豆
これらのタンパク源を、偏らずにバランスよく摂取することが大切です。
ミネラル
ミネラルとは、人間の身体を構成する元素のうち、酸素・炭素・水素・窒素を除いたものの総称です。
現段階で明らかになっている人間の身体に必要なミネラルは、以下の16種類です。
- ナトリウム
- マグネシウム
- リン
- イオウ
- 塩素
- カリウム
- カルシウム
- クロム
- マンガン
- 鉄
- コバルト
- 銅
- 亜鉛
- セレン
- モリブデン
- ヨウ素
ミネラル自体はエネルギーにはなりませんが、骨や歯など体を形成するなど、非常に重要な役割を担っています。
また、ミネラルは、体内では合成できません。
食品から摂取する必要があります。
ミネラルが不足した場合は、欠乏症になるなど、さまざまな不調が発生するリスクがあります。
さらに、ある一種類のミネラルを摂りすぎた場合にも、中毒や過剰症を起こすことがあります。
ミネラルは、野菜、果物、海藻、乳・乳製品など様々な食品に含まれます。
それぞれが互いに吸収や働きに影響し合うこともあるため、バランスよく摂ることが大切です。
ビタミン
ビタミンは、糖質や脂質、タンパク質の代謝を円滑に進める、潤滑油のようなはたらきをする栄養素です。
身体に必要な量は少量ずつですが、体内では必要量のビタミンを合成することができないため、食品からの摂取が必須です。
ビタミンは、さまざまな食品に含まれています。
身体に必要な量をバランスよく摂取するためには、特定の食品に偏らない食事をすることが大切です。
現時点でわかっている身体に必要なビタミンは13種類あり、次の2種類に大別されます。
- 脂溶性ビタミン
- 水溶性ビタミン
それぞれ紹介します。
脂溶性ビタミン
脂溶性ビタミンは、次の4種類です。
- ビタミンA
- ビタミンD
- ビタミンE
- ビタミンK
脂溶性ビタミンは、摂取すると体内に蓄積され、徐々に消費されていきます。
過剰に摂取すると過剰症を引き起こす可能性があるため、摂りすぎには注意が必要です。
水溶性ビタミン
一方、水溶性ビタミンは、水に溶けやすい性質があります。
以下の9種類です。
- ビタミンC
- ビタミンB1
- ビタミンB2
- ビタミンB6
- ビタミンB12
- ナイアシン
- パントテン酸
- 葉酸
- ビオチン
ビタミンC以外をまとめて「ビタミンB群」と呼ばれることもあります。
過剰に摂取した場合は、尿として排泄されるため、基本的に摂りすぎの心配はありません。
しかし、摂取量が不足すると欠乏症を引き起こす可能性があるため注意しましょう。
栄養バランスのとれた献立を作るポイント
栄養バランスのよい食事を摂る際のポイントは、以下のメニューのバランスを意識して献立を決めることです。
- 主食
- 主菜
- 副菜
- その他の食品
それぞれ解説します。
主食
主食は、炭水化物を多く含むエネルギー源です。
米やパン、麺類などが該当します。
必要量な摂取量は、性別や活動量などで変化しますが、1日のエネルギー摂取量の約50~65%は主食で摂取することを推奨されています。
主菜
主菜は、一般的にメインディッシュとも言われます。
たんぱく質や脂質の供給源となるおかずです。
具体的には、魚や肉、大豆製品、卵などを材料とした料理を揃えましょう。
1回の食事で揃える主菜は1~2品がおすすめです。
摂りすぎると肥満や、脂質代謝異常などの原因にもつながるため、自身の体型や生活に合わせた適切な量を把握しておきましょう。
副菜
副菜とは、野菜やきのこ、海藻類などを使った料理のことです。
身体の調子を整えるビタミンやミネラルを主に供給します。
1回の食事で2品以上用意することをおすすめします。
厚生労働省が健康増進法に基づき策定した「健康日本21」では、生活習慣病の予防や健康な生活を維持するために、成人は野菜類を1日350g以上摂取することを目標と掲げています。
(参照:「健康日本21 |厚生労働省」https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b1.html#A14)
ビタミンや無機質を豊富に含む食材は、現代の食生活では不足しがちです。
副菜が少なくならないよう、意識して取り入れましょう。
乳製品
チーズ、バター、ヨーグルト、クリーム、練乳、アイスクリーム、粉乳、乳酸菌飲料など、生乳や牛乳は加工することによって作り出された食品が、乳製品です。
乳製品には、良質なタンパク質、カルシウムなどのミネラルや、不足しがちなビタミンB群がバランスよく含まれています。
主食、主菜、副菜のほかに、乳製品を取り入れると、栄養素が幅広く摂取でき、バランスの良い献立になります。
1日の目安量は摂取カロリーにより異なります。
過剰に摂取すると肥満の原因のひとつとなるため、摂りすぎには注意しつつ、適切に取り入れましょう。
果物
果物にはビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。
普段の食事に果物を組み合わせることで、身体に必要な栄養素を幅広く摂取できます。
健康な成人では、一日に200gの果物を摂ることが推奨されています。
しかし、食べ過ぎると、糖質の過剰摂取につながる可能性ががあるため、食べ過ぎには注意が必要です。
また、ドライフルーツやシロップ漬けの果物には、甘味料が添加されている場合も多いです。
ドライフルーツやシロップ漬けの果物を習慣的に食べていると、糖質を摂りすぎる可能性があります。
果物を食生活に取り入れるときは、できる限り生の新鮮な果物を選びましょう。
食事バランスガイドとは
栄養バランスの良い献立を作るために、具体的に利用する食材や量を決める参考になるのが厚生労働省と農林水産省が協同で作成した「食事バランスガイド」です。
食事バランスガイドには、1日に何をどれだけ食べたらよいか考える参考となる食品の例がわかりやすく示されています。
- 主食
- 副菜
- 主菜
- 乳製品
- 果物
上記の5項目について、それぞれコマの絵の中に具体的な食品例が記載されています。
それぞれの食品群の食べるべき量は、1日の必要カロリーに応じて変動します。
自身のの性別や年齢、身長や身体活動の程度を当てはめれば、一日の必要カロリーの目安を簡単に調べられるようになっています。
なお、食品の量の単位として用いられているのは「SV(サービング)」です。 食品によって1SVの量が異なるため、絵の中の料理例に照らし合わせながら、適切な量を把握していきましょう。
食事の準備をラクにするおすすめ食材
栄養のある食事を用意するには自炊が基本ですが、毎日の自炊に負担を感じる方も多いでしょう。
そこで、手軽に摂取できる、栄養豊富な おすすめの食材を紹介します。
冷凍食品
保存がきく冷凍食品は、使いたい時に温めてすぐに利用できるため非常に便利です。
最近では、下茹でや皮むき済みで使いやすい状態で冷凍された冷凍野菜も多く売られています。
冷凍野菜は、生鮮野菜のように保存方法に配慮しながらすぐ使い切る必要はありません。
また、冷凍のハンバーグや冷凍餃子、下味のついた魚など、レンジやフライパンで簡単に調理できる冷凍食品もおすすめです。
手間をかけずにおいしい主菜を用意できます。
缶詰
缶詰は、完全密封、加熱殺菌されているため、常温での長期保存が可能となっています。
開けてすぐに食べられるものが多く、災害時の非常食としても備えておくと安心です。
缶詰の中身は、魚、肉、野菜、果物など、さまざまな種類があります。
たとえばサバの水煮缶は、さまざまな料理に利用できるうえ、不足しがちなオメガ3脂肪酸を手軽に補える健康的な食材です。
ほかにもツナ缶、トマト缶など、普段から料理に使いやすく、栄養バランスを整えるために活躍する缶詰も多いため、ぜひ活用しましょう。
洗うだけ・開けるだけで食べられる食材
ミニトマトや、皮ごと食べられるブドウ、ベビーリーフ、スプラウトなど、包丁を使わずに洗うだけで食べられる野菜や果物は、食事に彩りを添えたり、食事で摂取可能な栄養を補強できるためおすすめです。
また、スーパーでは、洗浄と、カット済みの野菜が売られています。
カット野菜は、パッケージを開けるとすぐに食べられるため、調理の手間が大幅に減ります。
ただし、カット野菜は洗浄時に水溶性ビタミンが溶け出し減少しています。
便利な反面、野菜を丸ごと利用する場合より栄養価は下がることは理解しておきましょう。
まとめ:できることか少しずつ食生活を改善しよう
今回は、栄養バランスのとれた食事の考えかたや栄養素の基礎知識、食事の栄養を整えるちょっとした工夫を紹介しました。
食生活を改善したいと思っていても、なかなか行動に移せていない方も多いのではないでしょうか。
食事で食べたものは、そのまま人の体の材料やエネルギーになります。
手軽にできることから、少しずつ自身に合った健康習慣を見つけてみてくださいね。
「忙しくて栄養バランスが整えられない」と悩んでいる方は、必要な栄養素を全てバランスよく含んだ「完全栄養食」に1食を置き換えるのもおすすめの対策です。
完全栄養食については、以下の記事で紹介しています。